TOP草原のチョウタテハチョウ科ヒョウモンモドキ


ヒョウモンモドキ Melitaea scotosia

早朝アザミにとまる

(2005.1.13更新)

 

(左)早朝、保護地に会いに行った。朝もやの冷気の中でびっしりと露を体につけアザミの花に休むこのチョウに出会うことができた。
(2004.6 広島県加茂郡)

 このチョウは、名前がさすようにヒョウモンチョウのように表は黄茶色に黒の模様であるけれど、裏面はモザイク模様に特に白味勝ちなのは、このチョウの特徴で、美しい。
 食草は、キセルアザミかタムラソウ。どちらも少し上等な里山に生える。
 このチョウを実見して、かなり大きめの印象を受けた。日が差すと発生地をかなり活発に飛び回るが、あまり離れず局所的な範囲にとどまるようだ。よく花に吸蜜し、特にノアザミを好み、重要な吸蜜源になっている。メスは陰ると花から離れることなく、手でふれても逃げようという気配もなく、ずっと吸蜜を続けていた。

チョウに会える登山道へ

●危機的なチョウ

 このチョウは、日本のチョウのうちで最も危機的なもののひとつである。
 かつては群馬県、山梨県、長野県(ごく珍しくは千葉県の記録もある。)など、関東近県にも少なからず分布するチョウであったようだが、そういうよい時代を私はすでに知らない。チョウとの付き合いを始めた記憶のあるときには、すでに珍蝶として採集者の熱い視線が注がれる存在であった。
 生息の可能性にかけて、近県の記録地を訪ねることも数回では数え切れない。しかし、1回も会えなかった、いや会いようもなかった、というべきだったのかもしれない。

 2004年、広島県の発生地で保護活動を行っている「ヒョウモンモドキ保護の会」が開催する観察会に参加して初めて対面することができた。初めての出会いについては、当時の「山道の管理日記」に掲載しているので参照いただきたい。
 翌日以降、この周囲の場所で自力でも生息地を探したりしたのだが、会えたのは、保護地でのみであった。したがって、ここで記述するこのチョウの生態は、保護地における、つまり人の手が加わった環境から類推したものであることをお断りしておく。

●減少についての仮説

 保護地を見て実感したのは、このチョウが危機的状況になってしまったのは、食草が生えるための湿原的環境の衰退だということだ。保護地は、もともと休耕田で、ススキなどの丈の高い草を刈り込むなどの手を入れた場所であった。こうした場所で食草キセルアザミが株を広げていた。手の入らない休耕田は、ススキなどに覆われ、丈の低い草はまったく生えることが出来ない状況を見ることができた。
 一方で、この機会には、谷間に残された貴重な貧栄養湿原を見ることもできた。ここでは、人の手が入らなくとも、丈の高い草は茂ることがなく、キセルアザミも生息することのできる環境を保っていた。本種は、本来こうした細々とした草しか生えないような環境の周辺で、世代を引き継いでいたのではないだろうか。

キセルアザミ (左)食草キセルアザミ

 人の手が入るようになってからは、貧栄養湿原の消滅、田んぼなどでの営養化による他の草の進入、そしてもちろん農薬の影響などいずれにしても住めない環境となったのだろう。
 これに併せて、この種類独特の環境の変化に敏感な性質もあるに違いない。
 また、ある場所では別な食草とされるタムラソウが決して多くはないけれど、それなりに残されているところを見つけた。しかし、このチョウはまったく見られなかった。この地では、キセルアザミだけの偏食を決め込んでいるのだろうか。
 

●個体変異

 このチョウのメスは、概ねオスに比べ黒っぽい翅色をしているのだが、「黒化型」と呼ばれる特に黒味の強い個体もよく現れる。
 採集品をできるだけ価値のあるものにしたがる採集者の中には、こうした黒いものを「異常型」とまで呼ぶことがあるが、とても異常といえるものではなく、ある程度の数の中ではかなりの頻度で発生するものと思われた。
 右は、この日の会ったうちで最も黒化度の高かった個体。ほとんど豹柄と思えないくらい濃い茶色で塗りつぶされている。ほかにも、黒化の強いものも多くみかけた。新しい個体だが、地味過ぎてあまりきれいな感じはしない。

 こうした個体変化に富んだ種類であることは確かかもしれないが、これがまた採集者の数を採る傾向に拍車をかけているに違いなく、哀しいことだ。
 決して異常型などではないのだから、むやみと採集することがないようにしてもらいたいものだ。
 

(右)メス。いわゆる黒化型
(2003 7.25 静岡県富士市

生活史など

 観察会では、羽化前の蛹や産まれた卵塊など、他の生活のステージを見ることもできたことは幸運であった。
 こういういものを見つけるのが苦手な自分にとって、多くの目がある観察会のありがたさであろう。一人では絶対見つけられる自信がない。

 蛹は、去年のススキの枯れた穂に見つかった。
 成虫の姿を予想させない、黒と白のゼブラ模様。タテハチョウやマダラチョウにある、釣り下がる垂蛹である。
 観察会の日から2日後に訪れたときも、この蛹はまだ変わらずにぶらさがっていた。いったいその後どうなっただろう、この遅めの蛹から無事に羽化できたのだろうか、また、それはいつだったのだろうか。

(右)垂蛹、白黒が鮮やか

 

 観察会の時には、メスも発生し出したという状況であったが、すでに気の早いメスは、産卵も開始しているタイミングであった。
 あるアザミの葉をめくったところにびっしりと並べて産みつけた卵塊があって、会の人が参加者に見せていた。

(左)キセルアザミに産卵された卵。
ものすごい数が卵塊を作って産まれる。

●最後にエール

 2004年には、保護地でしか会えなかったのは残念であったけれど、しかしもはやそうでなければ会えない存在、といってほぼ間違いない、と思えた。
 しかし、まだそうした保護の会の取組みと地元の理解によって、着実に成果が残されているのは実に素晴らしく、頼もしさも感じた。
 私のような一時の旅行者に、何もえらそうなことはいえない。しかし、拙くも保護活動についてご紹介させていただくことで、少しでも多くの人に知ってもらえることを祈りつつ、保護活動のさらなる発展を願ってエールを送りたい。そして、ヒョウモンモドキがいつまでも生息してくれることを心から祈るばかりだ。


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