TOP草原のチョウタテハチョウ科ウスイロヒョウモンモドキ


ウスイロヒョウモンモドキ Melitaea regama

 

(2005.1.21更新)

 2004年の初夏、このチョウに初めて会うことができた。それは、ヒョウモンモドキの観察会に参加するために広島へ遠征した機会に、岡山県で保護活動に取り組んでいる倉敷芸術科学大学の河邉教授により、そちらで開催されるこのチョウの観察会にご案内いただいたのだ。
 この観察会は、基本的に地元の保護に携わる人たちが成虫の発生状況を見るものである。一旅行者に過ぎない私が、しかも当初の予定になしで、参加できたのは、たいへんな幸運であったと言わねばならない。

 このチョウの発生時期は、おおむね7月上旬と知られている。したがって、はじめ時期はずれとも思え信じられなかったが、この人里に近い保護地は、ちょっとした高原状の台地ではあるが、標高が低いため、6月中下旬の発生であるらしい。

(左)ヒメジョンがお気に入り。飽かずこの花に吸蜜を続けていた。(2004.6 岡山県新見市) 

(右)吸蜜をクローズアップ

(下)模様に関して、翅表はコヒョウモンモドキと全く見分けられない。後翅裏面の亜外縁の帯が途切れる、という違いがあるくらい

 観察会では、始め、現在岡山県北部において、このチョウが確認されている地点が示され、いかに貴重な存在であるかが説明された。おそらく地元研究者たちが必死に調査した結果であろうが、山地周辺に少ないポイントが、文字通り点在するにすぎなかった。
 つまり、今や日本ではこの点在する場所にしか存在しない、という哀しい事実なのである。
 しかも、ここのやや低標高の生息地は、他のポイントからは独立した離れた場所で、なおさら貴重な個体群であることが理解された。

 なお、当初、ここでそうした調査結果やこの保護地のことを詳しく記すことについて、とても迷った。
 しかし、悪意ある採集者には、「隠そう」という方向でどう努力を講じても無駄と判断し、広く情報公開して、多くのかたの視線を理解とにより保護が進められんことを期することにした。
 これをご覧になった方にはそうした掲載意図をご理解いただきたいとともに、採集者は地元では強い監視の目が常にあることを心してもらいたい。

●生態〜初めての印象

 さて、青空の強い日差しの下で見た、このチョウはもっぱら吸蜜活動に忙しいようであった。
 それは今回必ずといってよいほどヒメジョンの花においてであった。これほど希少な存在の彼らの吸蜜源が、ありふれた白い花に限っていたのはなんとも意外であった。ヒョウモンモドキがあれほど大好きなアザミの類も多く生えているというのに、アザミに止まる姿はごく数回見ただけであった。
 花から花へとそれなりの速さで飛び移っていくが、気に入った花があると、一箇所での吸蜜に専念する、というふうだった。その雰囲気にも、どこかはかなさが漂うように感じてしまった。

●求愛行動

 この時期は、まだオスも発生して新しいものが多い状況であったが、求愛行動を観察できたのは成果であったろう。
 それが上掲の写真である。ヒメジョンに止まっているのがメスで、その周りをオスがまとわりつくように飛びまわる。たまに近づいて体当たりになってしまうこともあったが、右図のようにやや下の位置でホバリングしてご機嫌を伺う、という時間もかなり長い時間で見られた。そういうことができるということは、一見鈍間に見えながら、実は中々の飛翔能力を持っているということが伺える。やるときはやるのだ。
 観察者たちは、いざ交尾するか、と見守っていたが、残念ながらアタック空しく、メスに気にいられなかったのか、逃げられどうしで結局交尾には至らなかった。

 (左)食草カノコソウ

 この地での食草は、基本的にカノコソウである。丈の低い草原の中に、他の草に混じってカノコソウが見られた。保護活動では、選択的にカノコソウの増殖を図っているようだが、他の草の繁殖力も強く、生存競争ではなかなか予断を許さない状況であるようだ。
 なお、観察会では、卵塊から孵化したばかり1零幼虫が回覧されたが、その小ささは驚くほどだった。シジミチョウ類などは、はるかに卵も幼虫も大きいのだなあ、と理解。

●保護の取り組み

 この地での保護活動は、小学生くらいの子供達から大人まで広く定着してきているようである。市など行政も入っての活動に至っているが、あえて条例化という手段は選ばず、着実な成果のある方法で進めているようである。年間を通じての管理など頭がさがるばかりだけれども、ぜひとも継続し、成果を上げられてほしいと願う。

 重ねて、河邉教授をはじめ保護の会関係者の皆様にこの場を借りてお礼申し上げるとともに、発展をお祈りしたい。


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