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ヒメヒカゲ Coenonympha oedippus

飛翔
(長野県岡谷市 2001.7)

 生息環境についていえば、草原のチョウであるとともに、湿原のチョウでもある。
 低地でははっきり湿地の環境にすむようで、中部山地では、アカセセリがすむような山間の乾性草原にすんでいる。乾いたといっても草原の中では、花畑となる湿潤な場所に多いように思うので、やはり湿生の傾向があるのだろう。理由は、食草の各スゲ類の生える場所ということだろうか。
 そもそもそうした場所は、開発で消えていってしまうし、残された場所でも、採集者が押し寄せるためか減少していく一方。また、1年に1回の現れる期間もけっこう短く、なかなか会えず貴重な存在である。
 考えてみると、緊急の保護措置が必要な種類ではないのだろうか。
 名前のさすとおり小型のジャノメチョウで、ギフチョウやオオムラサキなどのような派手さがない分、普通目には「地味な」存在だけに、一般市民による保護の動きは出にくいものと想像する。だから、そうした市民活動には期待できない。したがって、専門的な環境団体、行政等による、実効性のある保護措置が早急にとられないと手遅れになるのではないか、と心配している。

● 美しく・可憐

ヒメヒカゲ メス

(左)メス 飛翔の合間の休憩

 

 普通目には「地味な」チョウ、といったけれども、美しくないといっているのではない。
 むしろある美の方向性では、本州産のチョウで最も美しい種類の一つと思えてくる。

 明るい茶色の地色に眼状紋、後翅では眼状紋にそって白いラインが現れる。
 特筆すべきは、翅縁にそって現れる細い銀線だ。これは北海道にいる近縁のシロオビヒメヒカゲと本種にしか見ることのできないもので、自然の造形の神秘を感じて仕方がない。このラインは特にメスでは前翅までくっきりと現れ、本種の最大のチャームポイントとなっている。
 勝手な印象を押し付けてしまうが、控えめで気品にあふれた美しさ。
 また、シジミチョウほどの小さな存在がちらちらと草原を跳ねまわる姿は、可憐でかわいらしい。
 それらが愛好家にはたまらない魅力となっているのだろう。その気持ちは、容易に想像できる。だからこそ、将来へ残さなければいけない存在ではないだろうか。

●個性ある変異

 美しさ、可憐さに加えて、収集家にとっての魅力は、本種が個体変異と地域変異が豊かであることが挙げられよう。
 個体変異の前提として、まず、オスとメスとでの基本的な傾向がある。簡単にまとめると次のようになる。

 

♂オス

♀メス

翅の地色

暗い。濃い茶色

明るい。薄い茶色

眼状紋

前翅に現れる数が少ない。

前翅のものも大きく、現れる数も多い

後翅白帯

概して小さい。消滅することも

大きめではっきり。
大きさ、形は様々。

銀線

後翅のみで前翅には及ばない

後翅、前翅ともしっかり現れる

 以上の表を基本としつつ、実際には個体変異として、オス、メスそれぞれに様々な組合わせで現れる。
 また、地域変異も加わる。オスとメスの違いの傾向は共通しながらも、眼状紋、白帯の現れ方は異なってくる。が、私はまだ中部山地以外の個体には出会ったことがないので、あくまで文献知識によるもので、その説明は文献に譲ることとする。
 以下、手持ちの撮影できた画像により、個体変異を例示しよう。

おおむね標準的なオス(この産地の場合)

・地色は、オスとして、標準程度
・眼状紋は、前翅にはっきり2つ。また、後翅外縁には4つが並んでいる。ただし、後翅前縁の独立した眼状紋が、この個体は小さい。
・後翅白帯は、消失。
・銀線は、後翅にのみ。ただし、この個体は、特に細い。

前翅に眼状紋がないオス

・前翅に眼状紋がない。後翅外縁に4つ
・後翅の白帯は、小さいながらはっきり現れている。
・地色、銀線は、標準的

眼状紋の発達したオス

・前翅の眼状紋はひとつ。上に痕跡程度にもう一つ見えなくもない。しかし、後翅の眼状紋はいずれも発達している。大目玉だ。
・地色、銀線は、標準的
・後翅の白帯は、ほとんどない。

地色の濃いオス

・写真が逆光のせいで判りにくいかもしれないが、地色が濃い色の個体。
・銀線は、標準的
・前翅の眼状紋が2つだが、ひとつはほとんど消えかかっている。

後翅白帯が発達し、眼状紋の少ないメス

・後翅の白帯がたいへん太く広がっている。メスとしても大きい方。
・前翅の眼状紋は3つで標準的だが、小さい。また、後翅外縁が3つしかなく少ない。しかもどれも小さい。
・地色、銀線は、メスとしては標準的

 

前翅の眼状紋の大きなメス

・前翅の眼状紋が大きい。上の個体と比べるとよくわかるだろう。メスの場合、4つ目の眼が出ることもあるが、ごく痕跡のように現れかけている。
後翅外縁の4つの眼は標準的。
・地色、銀線は、標準的
・後翅の白帯は、長くはっきり現れているが、だいたい標準だろう。

●飛翔のようすいろいろ

     
     
 

●その他の生態

翅表は黒くて無愛想
吸蜜は、あまり見かけない
 

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